なんでもない話

なんでもない話

帰りたかった家

帰りたかった家

小石川の家

小石川の家

 青木玉幸田文の娘であり、幸田露伴の孫です。『小石川の家』は祖父露伴との思い出が多く出てきます。年をとって気難しくなっていく祖父に献身的に使える娘、文子。どうしてお母さんにそんなにつらくあたるの?と思いながら何も言えない幼い自分。しかし筆致は軽く、陰惨なイメージはありません。祖父との楽しいエピソードも描かれています。『帰りたかった家』は『小石川』よりも古い時代、つまり玉子の父親が健在であった時代から語られます。酒造業の若旦那であり、渡米もしたハイカラな父、しかし経営の才も世渡りの才もなく、気弱でやさしいだけの父、祖父露伴とは正反対の父。しかし玉子は父母と自分の三人で住んだ家に帰りたいと思っている。このエッセイはちょっと悲しくなるようなエピソードが並んでいます。また、祖父露伴はあまり出てこず、露伴の気性と才能を受け継いだ文子と、父の気性を受け継いだ玉子との二人きりの苦しい生活が描かれています。その苦しさは物がないという苦しさもなることながら、強い母の要求に応えられない弱い娘の苦しさが綴られています。『なんでもない話』は上の二作に比べると、「いま」の青木玉の充実した生活が軽いタッチで描かれている、エッセイです。医者である青木氏との間に一男一女あり、ふたりとも立派に育って、老境を迎える作者は時代の変化の速さをひしひしと感じます。小石川の祖父との明治時代の延長のような少女時代、戦後の何もない時代、そして今。玉子が子どもの頃、薪と石炭で煮炊きをしていたのが、老境にさしかかって秋葉原で買ったマイコン炊飯器でごはんを炊いて、レンジで料理している場面が出てきて何とも目の回りそうな話だと思いました。ちなみに青木玉の娘は青木奈緒で、やはりエッセイを書いています。恐るべし、幸田家。