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蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ

蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ

 高学歴ワーキングプアなどと聞くと、最近の日本の話かと思いきや、さにあらず。中国のお話です。中国では1980年代に生まれた世代を「八〇後」と呼ぶそうですが、この世代が大学を卒業する頃、大学の大衆化が広がり、大学生であること=エリートではなくなってしまったのです。もちろん、一部の重点大学などはそうではなく、その点日本も同じだと思います。ワーキングプアになってしまう大学生は名もない私立大学卒や、日本でいう短大卒のようなレベルの人たちです。企業が全然相手にしてくれないので、良い職には就けず、かといって故郷に帰るわけにもいかずという人たちが北京のような大都市の郊外に群居して「村」のような様相を呈しているというのです。彼らのほとんどは農村出身で、両親の経済的・社会的地位は低く、それがそのまま「八〇後」世代に受け継がれているのです。この点も現在の日本とよく似ています。スタート地点で差が付いているのです。
 作者自身も「八〇後」世代の若い大学生で、村の中に入って彼らと交流しながら実態を探っていきます。内容の前半は中国の学制の説明と調査方法と経緯、真ん中の大部分は聞き取りの内容を小説風に人物を扱いながら紹介していきます。最後に日本人の書いた解説がありますが、日本人にはここが一番わかりやすいでしょう。日本の大学生との比較などなかなか面白いです。
 この本は中国でベストセラーになり、政府も対策を検討しているようです。社会の片隅で見えなくされていた存在を世の中に知らしめたという点で、大変意義深い本だと思います。経済躍進激しい中国で、こういう若者もいるのかと驚くばかりでした。