発達障害について

発達障害の子どもたち (講談社現代新書)

発達障害の子どもたち (講談社現代新書)

 まず本書は次の各項目について「なぜこれが誤っているのか」と思う人は、この本を読む価値があると始まります。筆者はこどもの発達の臨床に長年携わった経験から、発達障害に関する多くの誤解がこどもの発達に関わるすべての人にとって、つまり親、学校、臨床医、小児科医などにしなくてもよい不幸を背負わせていると考えています。そのため、その誤解を分かりやすく解きほぐしていく作業が展開しているのが本書です。その項目とは、
発達障害は一生治らないし、治療方法はない。
発達障害児も普通の教育を受けるほうが幸福であり、また発達にも良い影響がある。
・通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることができるが、その逆はできない。
養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない。
・通常学級の中で周りの子どもたちから助けられながら生活をすることは、本人にも良い影響がある。
発達障害児不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激はしないほうが良い。
養護学校卒業というキャリアは、就労に際しては著しく不利に働く。
・通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる。
発達障害は病気だから、医療機関に行かないと治療はできない。
・病院に行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する。
・なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接するほうがよく発達する。
・偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正しなくて良い。
・幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する。
 発達障害において最も難しいのは自閉症で、そもそも自閉症の「症状」がどういうものであるのかがよく分かっていなかったために、その治療は迷走を極めたということが歴史ともに詳しく説明、事例の紹介があります。また、アスペルガーADHDなどの一通りの説明と事例紹介があります。さすがに筆者は臨床に現役で携わっている医師であるため、その説明は具体的で説得力があります。
 本書で特に一章を割いて虐待について説明しているところは必見です。虐待由来の発達障害と、ふつうの発達障害の違いを詳しく説明しているとともに、「虐待の連鎖」といわれる状況の内実を母子並行治療の過程から解き明かします。これからの虐待施策を考える上で重要な視点だと思います。
 最終章では薬について特に詳しい説明を加えています。専門的な言葉も混在しますが、かなり分かりやすく、専門外の人にとっては初めて聞くような話が多いです。こういう情報は正しく公開されてしかるべきだと思います。現代は情報過多であるわりに本当に知りたいことはなかなか手に入りません。
 筆者も強調していますが、療育(治療的教育)の基本は、早寝早起きや三度のご飯などの健康な生活です。改めて指摘されると、現代社会に増加しつつある発達障害はそのまま私たちの生活への警鐘となるものでしょう。発達障害の増加に関しては、脳科学の進展によりかなり確実に増加していると言えるようです。様々な因子が引き金となって働く遺伝子が脳に器質的なダメージを与え、発達障害を引き起こしているからです。それはタバコやアルコール、シンナーであったり、虐待であったりします。様々な社会の歪みが一番弱いところに現れてくるというわけです。