夏本番

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

 日露戦争が現実味を帯びてきた頃、対ロシア戦の寒冷地での戦闘を想定して、八甲田山の雪山行軍が実施された。青森5連隊と弘前31連隊が競うようにそれぞれが逆方向から進軍する。それぞれの連隊の指揮官は事前に打ち合わせをしてお互いの無事を祈って出発するが、二つの連隊は全く異なる運命をたどる。実話に基づいた小説。
 雪山を進軍してゆく困難さが精緻な描写から身に迫って来ます。知らず知らず肩に力が入ってしまう小説です。あまりに細かいと専門的になりすぎて読みにくいものですが、書かれているのは人間についてなので、自分もその場にいるような臨場感と、心の声までが聞こえてきそうな親密感を感じます。二つの連隊の生死を分けるのが、究極的には人間同士の確執や虚栄心、階級意識などによるということが明らかになって行くにつれ、その後の日本軍の惨敗がこのようなところからすでに予言されている気がします。
栄光の岩壁(上) (新潮文庫)

栄光の岩壁(上) (新潮文庫)

栄光の岩壁(下) (新潮文庫)

栄光の岩壁(下) (新潮文庫)

 青春時代を戦前・戦後の混乱のうちに失ってしまった竹井岳彦が山に魅せられ、深入りしていく。18歳の時、冬の八ヶ岳で遭難し、友人と自分の両足先を失う。足を失っても山から離れられない竹井岳彦は日本中の未登攀の岩壁を登り、有名になっていく。物語はヨーロッパのマッターホルンを日本人で初めて登攀に成功したところで終わっている。これも事実を元にした小説です。
 山男の生き様が描かれています。コミカルな描写も多く、読みやすいです。