女流漫画家

まんがと生きて

まんがと生きて

 1929年生まれにして、未だに現役の女流漫画家の自伝風エッセイです。お役人一家に生まれて今の東京芸術大学の校内に住んでいた雅子は、上野動物園に出入りする「野生児」だった……。戦前・戦中・戦後を生き抜き、子育てをしながらマンガという新しいメディアを使って黎明期の少女漫画の世界を切り開いて行った人です。例によって手塚治虫の影響で漫画を描き始めるあたり、漫画の神テヅカの偉大さを再確認しつつ、女流漫画家というものがほとんどいない中で、50年以上も人気を保ち続けて現役を続けているところは、驚異的です。幼い頃の思い出の辺りは風物詩としても面白いです。衣食住の貧しいながらも精神的に豊かな日本の姿が見えてきます。また奇跡的に戦争の直接的な被害には遭わないものの、戦争が奪っていったものが具体的に浮かんできます。雅子が終戦の詔を聴きながら「これでスカートをはいてもいいのね?」という言葉はよくそれを表しています。茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」にも通じる女性の視点です。反戦平和を理論で反対するのも大切ですが、こういう感覚的な戦争反対は、また人としてとても大切な感覚だと思います。