ザラスシュトラはかく語りき

ゾロアスター教 (講談社選書メチエ)

ゾロアスター教 (講談社選書メチエ)

 ゾロアスター教について僕は世界史で名前を聞いただけで、この本を読んで初めて知ったことが多かったです。世の中には知らないことが多い。最終章を除く研究の部分はかなり専門的で疲れますが、高校世界史レベルではまず学習できない、古代アーリア人の歴史が概観できます。また、これまでほとんど扱われなかった、古代アーリア人の様々な宗教を学べます。ザラスシュトラは神官の家系に生まれながら、既存の宗教を否定し、アフラ・マズダという最高神を生み出し、世の中をすべて善と悪の二分法で説明していく新しい宗教を創始しました。しかしこの宗教は長らく(キリスト教がそうだったように)既存の宗教の一分派としか扱われませんでした。それが国家の庇護を受けるに及んで、その地位を急激に上げていきます。しかしその時にはザラスシュトラの主張した過激な内容からは異なったものに変質していました。既存の古代アーリアの宗教と妥協を図る形で生き残ったのです。しかしそれもペルシャが滅んでイスラム世界に飲み込まれることによって消滅してしまいました。現在はゾロアスター教はパールスィーと呼ばれる、インドに移り住んだ人たちの子孫に儀式が受け継がれているが、彼らはその呪文の言葉の意味はわかりません。生活様式は完全にヒンドゥー教徒となっています。また、イランにゾロアスター教の神官の末裔が生きていますが、ひたすら血脈を保ち、神聖な火を守るだけになっています。また、ザラスシュトラはオリエント、ヨーロッパへと伝えられるうちに誤解され、勝手なイメージが付け加えられ、超人的な賢者として紹介されたようです。僕は不勉強にして全然知らなかったのですが、ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』のツァラトゥストラとはザラスシュトラのドイツ語読みだそうです。ゾロアスターギリシャ語読みです。また、ナチス・ドイツはアーリア至上主義を唱え、ゾロアスターをアーリアの最高知としていたらしいです。それはともかく、ゾロアスター教ユダヤ教キリスト教、仏教、イスラム教いずれの宗教よりも先行して存在した宗教で、それらに様々な影響を与えています。キリスト教の処女受胎などもその一つです。