当然の考えだと思う。
- 作者: 岩下明裕
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/07/12
- メディア: 新書
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竹島・尖閣の問題は長年交渉をしてきた北方領土問題での経験が生きるはずだとしています。筆者の一貫した主張は歴史問題と領土問題は切り離して考えるべきだとというものです。切り離すとは歴史問題について議論しないというのではなく、徹底的に歴史問題を話し合う別のテーブルを用意すべきだという意味です。その議論は果てしなく、仮に国境の問題に一応のけりがついても終わらないだろうとしていますが、それでもお互いに言いたいことをすべて出し合う場を作るべきだという案です。
北方領土の問題について筆者は「日米関係の従属変数」と化していると批判しています。戦後、ソ連と日本の間に二島返還の動きがありましたが、アメリカの意向によりストップしてしまったり、四島返還に日本側が急に切り替えたりといった政治的駆け引きの道具として使われてきたのです。地元の人間にとってどうなのかということを筆者は実際に現地に行ってアンケートを採り、生の声を聞いています。現地の人にとってみれば、漁をするにあたっての安全確保、町の発展のために二島返還でも確実に進めてほしいようです。さもありなんと思ったのは、地元から離れれば離れるほど、意見は強硬に抽象的になってきて、北方領土は日本固有の領土だ、四島一括返還以外ありえないといった意見になってくるそうです。自分の日々の生活から遠いほど原則論になってしまうのはどういう場面においてもそうだと思います。脱原発ひとつとっても地元の人が実際にどう思っているかは無関係に、原則論で即時停止・廃炉にせよという人もいますが、地元の有力な就職先として原発があり、歳入の大部分を原発関連の交付金に頼り、原発が地元の生命線になっている地域もあるわけです。それは沖縄の基地問題にしてもそうです。これらの問題もいつも歴史的な経緯が取りざたされていつまでも話が進展しないという状況に陥っています。
領土の問題を地上の土地だけの問題と考えるべきではないと筆者はくり返し訴えています。また海の利用者にとってみれば大切なのは島までの距離や漁場の良し悪しなどで、必ずしも島ひとつが問題なのではありません。実際に現地を取材して書いている筆者の意見には聞くべきものがあります。尖閣の問題も中国と日本だけの問題ではなく、台湾の漁民との関係もあります。それらの状況を無視して国が地元の頭越しに国同士で協定を結んでしまい、昨日まで使えた漁場が使えなくなったり、地元同士の暗黙の了解が通用しなくなったりということが起きてくるのです。
筆者は言います。日本は国境に対する意識が希薄であると。隣国ときちんと交渉をして国境を(海域を)確定し、「くにのかたち」を明確にしていく努力をしなければならないと。自国の国境問題を日米同盟の従属変数にしてはいけないと。
私は筆者の意見に賛成です。現場の人たちの利益・国民の利益を追求して現地を発展させなければ、真の国民国家とはいえません。都市生活者・中央生活者の目線だけで政治を進めていては本当のことが見えなくなってしまいます。