ルポ 難民追跡
- 作者: 坂口裕彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/10/21
- メディア: 新書
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本書の優れているところは、難民はこんなに悲惨なのだ、だから人道的な立場から助けなければというような単純なきれい事を語っているわけではないところだ。受け入れ国の歴史的・政治的なさまざまな事情を取材によって明らかにしている。自分の国で仕事がなくて困っていたり、怒っている若者を取材し、そこへ町の人口をはるかに上回る難民が押し寄せる現実を浮き彫りにしている。問題はそう単純ではない。
筆者はあからさまに主張していないが、アメリカをはじめとする大国の自国の利益を優先する事情が難民を生み、問題の解決を遅らせているのは明らかだ。国連の常任理事国が武器輸出大国であるという事実の前で、戦争の終結を「国際社会」に委ねる現状には矛盾と無力感を感じる。しかし、目の前のアリさんを取材して難民の事実を訴える本書のような良書が世の中を変えていく一歩になるのもまた間違いない。